2025年1月31日、ミャンマーの国家行政評議会議長ミン・アウン・フライン上級大将が非常事態宣言の6か月間延長を発表。総選挙の準備を行うとしている。内戦の激化で行きづまった状況を打破するための分岐点だ。ミャンマーの未来を考えるingo PEACE.が取材班を派遣し、実情を取材した。
破滅へのカウントダウン
2025年1月。ミャンマー・ヤンゴン国際空港に車で入ろうとすると止められ、若いミャンマー人男性がいないか車内のチェックを受けた。現軍事政権が発動した徴兵令の下で、18歳から35歳の男性は国外に出ることができないのだ。にぎやかな都市部も、夜が更けるとゴーストタウンのようになった。戒厳令だ。戦時下であることを再認識し、緊張が走る。
国民民主連盟(NLD)が大勝した2020年の選挙に不正があったとして、21年2月1日、タットマドー(ミャンマー軍)がクーデターを起こしたことは世界で報じられてきたとおりだ。20年、政権に就いたNLDは幹部の処刑を含む軍部排除の方針を示した。これに対し軍部が申し入れた対話の交渉が決裂、身に迫る危機を恐れた軍部は武力で政権を取り返した。権力を奪われ、支配を受けることに国民は反発。武装して立ち向かい、内戦の状態になった。4年が経ったいま、解決どころか内戦は激化し、事態は悪化の一途をたどっている。経済情勢は困難をきわめ、市民の生活は困窮。無政府状態に陥った地域が国際犯罪の温床になっていることも報告されている。
現地の政治識者は、「ミャンマーはボロボロだ」「このままでは国がつぶれる」という言葉を使った。日々の生活に苦しむ中、自ら武器を購入し武装する若者が増えたという。生きるために命を惜しまないこの矛盾した行動から、切羽詰まった国民感情と状況の異常性が伝わってくる。
“順当に”NLDが政権奪還した先の未来
すぐにこの状況を改善しなければならないことは明らかだ。内戦を止めなくてはならない。そこに至るには、「NLDが軍事政権を倒し、政権を奪還」というシナリオが順当に見えるかもしれない。
しかしながら、力による制圧で恐怖政治が始まり、別の力がそれを壊そうと戦いを繰り返すシナリオもまた、歴史を振り返ってもわかりやすい展開だ。そして、軍事政権と反軍事政権の双方に協力する諸外国が存在し、この内戦にはいわば「代理戦争」のような側面があることも忘れてはいけない。どちらが「勝利」しても、国際社会に禍根が残るはずだ。
加えて、ミャンマーが多様な民族性を有する多民族国家であることも重要だ。この内戦は、軍部からの政権の奪還をめざす反クーデター運動というシンプルなものではなくなり、少数民族の自治権や独立、連邦制などの政治的な要望も複雑に絡み合っている。これまでの中央集権的な体制が続けば、少数民族の不満がくすぶり続けること必至だ。軍事政権の打倒が国内の安定に直結するとは言えそうにない。
ただ、全当事者にひとつだけ共通しているのは、それぞれの立場から幸せを求めているということだろう。
ミャンマーの本当のPEACE
私たちは、どんな理由があっても攻撃は正当化されないと考える。
ミャンマー国外ではほとんど報じられていないが、軍事政権から国民に向けた演説では、彼らなりの国内の安定を確保する努力や発展のビジョンが発信され、話し合う準備があると語られている。そして今年2月には、選挙で選出された政府に平和的に政権を譲ると取材班に明言した。各組織は、各々の正義をかけて闘っている。どの主張も正しい。だからどの主張も正しくなくなる。
団体が連携する現地の企業経営者が、悲しげに言った。「優秀な女性社員が辞めていきました」。結婚したばかりの彼女の夫が徴兵され、二人で国から逃れることを決意したのだという。国内では、「徴兵されると99%帰ってこない」と言われている。
無力な一般市民たちがこんなにも政情に振り回され、犠牲を強いられている。果たして、戦いを続けることが国のためなのだろうか。同じ国に住む者同士が殺し合うのではなく、互いの声に耳を傾け、権利を尊重し合い、共に生きていく環境を整えることがPEACEへの最良の選択肢ではないだろうか。
しかし、その国の幸せのあり方はその国の人々で決めることだ。
ミャンマーが国のあり方を根本から新しくできるチャンスが、すぐ目の前にある。